橋本百合香個展「昼間の星の裏をのぞきたい」

2025年4月12日(土) - 29日(火・祝)
1-7 pm

休廊日:月・火・水 *4/29(火・祝)は開廊
入場無料

橋本百合香個展「昼間の星の裏をのぞきたい」展示風景
橋本百合香個展「昼間の星の裏をのぞきたい」展示風景
橋本百合香個展「昼間の星の裏をのぞきたい」展示風景
橋本百合香個展「昼間の星の裏をのぞきたい」展示風景

下北沢アーツでは、橋本百合香個展「昼間の星の裏をのぞきたい」を開催いたします。橋本百合香は1998年広島県生まれ、2022年京都芸術大学美術工芸学科日本画コースを卒業、2024年京都芸術大学大学院修士課程美術工芸領域日本画分野を修了しました。
橋本は昨年の修了制作展において、大小のキャンバスを組み合わせた壁一面の大型作品《いつの日か》を発表しました。その作品は、最初白っぽい画面に墨で描いた可愛いネズミに目が留まりますが、近づいてみると、無数の和紙や新聞などが透けて見え、どこまで見ても見切ることができません。ミクロとマクロで大きく異なる作品で、決して全体が捉えられないことが強く印象に残りました。
橋本は、美術大学受験で挫折後、大学での恩師との出会いを経て、日本画の成り立ちや画材技法、自身が表現するべきことの探究に真摯に向き合っています。現在は、母親が生まれ育ったブラジルを訪問した際に抱いた印象を元に、害獣でありながら可愛いネズミをモチーフに、意図した表現をすることが難しいコラージュという技法を用い、日本人の心情を表現する現代の日本画を模索しています。
橋本の作品の表面を、奥を、そのまた奥ををぜひのぞいてみてください。

アーティスト・ステイトメント

日本のアートには「日本画」と呼ばれるジャンルが存在します。素材は主に支持体に和紙を用いて、「岩絵具」と呼ばれる天然の鉱石を砕いた粉状のものに膠(にかわ)という動物の皮からできた接着剤を混ぜて描いていきます。その他にも「水干絵具」と呼ばれる貝殻を砕いた白い粉に染料で着色した絵具、煤と膠を練り混ぜ固めた「墨」などが描くのに用いられます。現代の日本の美術大学ではこの「日本画」と呼ばれるジャンルは主に明治期以降の時代の描き方を習い、学生の殆どが同じ描画材を使用し、同じ描き方をしています。使い方も、それぞれの大学の師のスタイルに倣い、他の方法は試さず(或いは他の方法を知らない)皆なんとなくこの方法が伝統的であるからという思い込みで自分の描き方を見直すことなく過ごしていきます。

私は、京都のとある美術大学にて技法材料を研究する先生に出会いました。先生は元々西洋絵画を研究されていた方で、現在は墨について熱く語ってくれるとてもユニークな先生です。また、その先生の教え子である方からも膠について専門的な知識を学びました。私が6年間大学で過ごしてきた時間はとても濃かったものだと感じます。私は、現代の観念的な日本画から脱却するため、改めて自身が用いる技法材料を再度見つめ直さなければならないと考えました。「支持体に和紙を用い岩絵具・水干絵具・膠・墨などを使ったからこの作品は日本画である」という世間の日本画のイメージに私は違和感を持っていました。

その疑問は自身の出自と関係していて、私の母は血は日本ですが生まれ育ちがブラジルです。上記に述べた日本画の世間的イメージへの反抗は私の中にある「日本という地域に生まれ育ったから日本人であると断言できる。」という当たり前のように聞こえる意見に疑問をもつこととリンクしており、様々な技法材料や江戸期の日本絵画を通じて現代の日本人が失ってしまった心豊かな感覚を取り戻すことができる作品づくりを現在は心がけています。

本展覧会のタイトル部分にある「昼間の星」というのは太陽のことを指します。日本の真反対にあるブラジルは日本と時差がちょうど12時間。こちらが昼ならば向こうは夜。私自身、生まれや育ちは日本であるけど、幼い頃から星の裏側で過ごしている人たちのことが気になっていました。太陽はひとつしかないから、向こうの人たちは暗い昼間を過ごしているのか?・・・一方で自身の立場に悩むこともありました。ハーフでもない。向こうの言語を話せる訳でもない。消し去りたい「除きたい」という葛藤やネガティヴさと、好奇心で高まる「覗きたい」という2つの気持ちが存在します。

絵を描く際、モチーフを決め画材を用意し絵筆で描いていく行為は意識的でむしろ意図的であると考えます。その中で、日本人の特徴の一つである「ありのままの状況を受け入れる行為」を画面の中で表現するためには何が適作であるか、私はコラージュと呼ばれる紙を画面に貼りつける技法を取り入れました。私が幼少期に見ていた日本とは違う外国の景色は一見ユーモアに見えるものの、その背景には別のメッセージ性を強く感じるものが多いと感じていました。街の人々はそれを落書きという形で残していて様々な世界が広がっていました。落書きは脆く、簡単に消されたり壊れやすいものです。しかしながらそのメッセージや記憶といった目に見えない存在は不思議なことに人々の心に残り続けます。私の作品には岩絵具や墨という不変的なものと時の流れによって変化していく箔やコラージュに用いる紙が存在します。100年持つ美術品を目指した時、私の作品は退色や変色があったとしても積層された時間や存在は消えることなく残り続けると思います。

橋本百合香《繕う》2024年、白亜地にミクストメディア、72.7x53cm(P20)
橋本百合香《サウダージを求めて》2022年、白亜地にミクストメディア、162x130.3cm(F100)
橋本百合香《まめでっぽう》2024年、白亜地にミクストメディア、103x38cm
橋本百合香《かなづち》2024年、白亜地にミクストメディア、103x38cm

橋本百合香(はしもと ゆりか)

1998年 広島生まれ
2022年 京都芸術大学(旧称:京都造形芸術大学)美術工芸学科日本画コース 卒業
2024年 京都芸術大学大学院修士課程美術工芸領域日本画分野 修了

好きな作家:大竹伸朗、福田平八郎、木島櫻谷、藤田嗣治、長沢芦雪、小野竹喬、田中一村、ピエール・スーラージュ、ウェイン・ティーボー、ジェームズ・タレル、KAWS、トゥールーズ=ロートレック、エドワード・ホッパー、Melanie Berman、Richard Zinon

個展
2024年
「みえてくるものみえなくなるもの」アートギャラリー北野、京都

グループ展
2025年
「青木芳昭 退任記念展 物質から再考する物語―教え、学び、表現する技法材料―」京都芸術大学、京都
2024年
「Artist New Gate ~三番町セレクション~」SANBANCHO GALLERY、東京
「京都芸術大学大学院修了展」京都芸術大学、京都
2023年
「青木・岩泉ゼミ展 ―層巒を築く―」アートギャラリー北野、京都
「上賀茂神社アートプロジェクト 13th」上賀茂神社、京都
「exhibition 花~もののあはれ~」ギャラリーMOS、三重
2022年
「Porsche Art Museum」梅軒画廊賞・ゴンドラパステル賞受賞、ポルシェセンター京都、京都
「上賀茂神社アートプロジェクト12th」上賀茂神社、京都
「京都芸術大学卒業展」京都芸術大学、京都
2021年
「第6回石本正日本画大賞展」入選、浜田市立石正美術館、島根
「画心展 倣古展」京都芸術大学、京都
2020年
「京都信用金庫2021年卓上カレンダー原画制作プロジェクト」3月担当、京都信用金庫、京都

奨学金
2022年
「三菱商事アート・ゲート・プログラム2022年度」 奨学生